大学入学共通テスト・倫理の分析【2021年1月16日実施分】

2021年1月16日に大学入学共通テスト(1日目)が実施されました。

本記事では大学入学共通テストの倫理を分析しています。

平成30年に実施された試行調査と比較しています。

全体について

○出題内容について
東西源流思想、日本思想、西洋近現代思想、現代社会という問題の並びとなった。
会話や資料などをもとにした読解要素もあり、単純に知識を吐き出すだけでは答えられない設問となっている。

○出題形式について
全問マーク式である。試行調査では38問あったが、本試験では33問となった。

○難易度について
上述したとおり単純に覚えていれば解ける問題の他に、読解力を要する問題があるため、センター試験よりも時間がかかる。新傾向に対応している受験生であれば難なく解けると思うが、対策を怠った受験生は歯が立たない部分もあっただろう。総合的に難易度は例年並みと予想する。

大問1について

大問1は「恥」をテーマに会話をしているという設定の問題である。(配点は24点)

問1は共同体に関する問題であり、基本的な知識を問う問題である。

問2はパウロの言葉がメモに書いてあり、空欄を埋めるというもの。キリスト教について基本的なことを理解していればわかる問題。

問3はヘレニズムの思想について基本的な知識を問う問題である。エピクロス派とストア派の思想の正確な理解を求められる。

問4はブッダゴーサ『アッタサーリニー』出典の資料から出題されている。会話の登場人物が感じた「恥」について資料をもとにどのような種類かを判別する問題。

問5は「恥」の感情に興味をもったXがレポートをまとめたという前提で、規範や秩序について説いた宗教家や思想家の記述として最も適当なものを選ぶ問題。基本知識で正答を選ぶことができる。

問6は儒家や墨家を厚顔無恥と批判する資料をもとに読解する問題。ややこしい選択肢はないので慌てずしっかり確認しながら読めば問題ない。

問7はイスラームの基本知識を問われる問題である。「お金を集めたいときは…」という記述で「寄付」を選ばないようにする。

問8は古代ギリシアとローマの思想家が、恥と評判や名誉との関係を述べた資料をもとに読解する問題である。

大問2について

大問2は「日本における時間の捉え方と人生観・世界観」について、調べるという設定からの出題である。(配点は24点)

問1は日本には唯一絶対の神というものはいないので(例外はあるかもしれないが)、『古事記』のことを知らなくても回答をしぼることができる。また、資料をもとに読解して判断できれば回答可能である。

問2はある絵に関して、高校生Bが感じた疑問と調査結果をまとめたノートから出題されている。
調べた結果の部分に書いてある「阿弥陀仏」から極楽浄土に導かれていると推量する。
平安後期から鎌倉時代にかけての仏教に関する基礎知識も必要である。
手をあわせているだけなのもヒントとなっている。

問3はレポートからの出題であるが、道元に関する基本的な知識があれば解くことができる。

問4はレポートからの出題であるが、林羅山と荻生徂徠について確実な知識を持っていれば解ける。

問5は正誤問題であるが、石田梅岩と井原西鶴について確実な知識を持っていれば解ける。

問6はア~ウの思想についてどの人物があてはまるかを判断する問題。
丸山真男、小林秀雄、吉本隆明について正しい理解があれば解ける問題。

問7は南方熊楠について正しい知識があれば解ける問題。

問8は詩人の高村光太郎が芸術作品の永続性について述べた文からの出題である。
内容をしっかり読解することができれば解ける問題。

大問3について

大問3は文章を読んで下線部に関連する問題が出る。(配点は24点)

問1はルターの思想が後世に対して果たした役割について心理学者・精神分析学者のエリクソンが論じた文章からの出題。読解すれば適当でない記述がわかる。

問2はデカルトが解いた「高邁の精神」についての問題。確実な知識を持っていれば解ける。

問3はルソーの『エミール』(教育学部志望の受験生は知っておかなければならない)からの出題。
「社会的通念こそ、むしろ、良心の最も残酷な敵なのである。」という記述などから選ぶことができる。

問4はキルケゴールの実存の三段階について正しい知識があれば解ける問題。

問5は社会主義者に関して確実な知識が問われる問題である。

問6はフッサールの現象学について正しい知識があれば解ける問題である。

問7は吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』からの出題。
しっかり読解できれば解ける問題である。

問8はconscience(良心)についての会話と前のページに記載されている文章を読解して解く問題である。

大問4について

大問4は2人の交わした会話からの出題である。(配点は28点)

問1はリオタール、フーコー、レヴィ=ストロース、ヨナスについての正しい知識が求められる。

問2はパーソナリティを分類した人物について、ア、イの説明にあう人物を選択する問題。

問3はマスメディアについて考察した有名な人物としてリップマンが挙げられ、彼の主張に従った場合、ア~ウのうちどれがマスメディアについて誤った印象を抱かせる要因となるかを判別する問題。

問4はフロイトの思想に対する正しい理解と、問題焦点型対処と情動焦点型対処がどのようなものかを文章から理解し応用できるかがカギとなる。

問5はバリアフリーの実例について発言した内容で適さないものを選ぶ問題である。
選択肢2は明らかに適さないので簡単だと感じるであろう。

問6はある大学病院に置かれた石碑の写真と前ページの文章をもとに選択肢を選ぶ問題である。

問7は記憶の定着の度合いに関する実験の手順と結果をまとめたものと表と図をみて回答を選ぶ問題である。

問8は思想家ベンヤミンが書いた歴史の書き方に関する文章とそのレポートを読みながら、ベンヤミン、マルクス、ヘーゲルに関する正しい理解と読解力を駆使して解く問題である。

まとめ

他教科と同様、思考力や考察力、読解力を要する問題がセンター試験に比べて数多くあり、対策をしていたかしていないかで大きな差がでるような内容であった。

知識を直接問う問題も多くあるが、一問一答的に(例えば人物の名前と作品名しか覚えていないなど)勉強している場合はまったく解くことができない問題である。

人物や作品名などは知っていて当たり前で、さらにその人物や作品の思想はどんなもので、どういったことに応用できるかが問われている。

普段からこういった抽象化する練習をしている受験生にとっては難易度の低い問題であるが、「○○の場合○○」といった犬の芸のように物事をとらえている人にとっては難しい設問だろう。